北の無人駅から

渡辺一史さんによるノンフィクションだ。

出版社は北海道新聞社。

3年ほど前に北海道(札幌)へ一人旅に行った時に出会った本だ。その後、800ページくらいあるけれど、3〜4回繰り返し読んだ。

これは紀伊國屋書店札幌本店で買った。この札幌の紀伊國屋はお気に入り書店のベスト5に入る。札幌に行くたびに毎日通う。広い、居心地が良い、本がある、イベントも面白い、喫茶店がある、そしてとても綺麗、言うことなしだ。後の4つは・・・考えたことない(今度考えてみよう)。

余談だけれど、一人旅に行くと必ずその土地の書店に入る。書店にはそれぞれ特色があるし、地域性も結構出る。知らない土地に一人いると、落ち着ける場所に行きたくなる瞬間がある。その落ち着ける場所が書店なのかもしれない。せっかく、旅に来ているのに書店に行くなんてもったいない、とも言われる。だけれども、旅に来たからといって名所巡りをしたいわけでもなく、アウトドア体験をしたいわけでもない。誰も知り合いがいないところで、ぼけっとしていたいだけだったりする。だから、居心地の良いホテル(風呂が広い、窓からの風景が良い、ソファーがある)と、大きな書店、静かな喫茶店、広い公園があれば十分だ(結構贅沢か)。従って大きめの地方都市によく行く。

この本の面白いところは、ただ無人駅を訪問する、鉄ちゃん向きの本に終わらないところにある。無人駅を入り口に北海道の社会、文化、歴史、今抱える問題を描いている。本書で紹介された小幌駅、増毛駅は最近ネットニュースでも廃止されるかどうかと報道されていた(どうなったのかな?)。小幌駅は全国的に有名な秘境駅、増毛駅は高倉健さん主演の映画「駅 station」の舞台になった駅だ。両駅とも来歴とともにそこにある(あった)街、映画について非常に興味深い物語が枚数を費やして描かれている。その他にも米作にまつわる話、タンチョウ、流氷にまつわる話など、駅、もの、そして人の物語が深く描かれている。ノンフィクション好きも、旅行好きも、北海道好きにも読ませる内容だ。

この本を読んで、北海道を訪れるか、北海道でこの本を読むか、どちらでも良いと思う。北海道で偶然この本に出会うというのが一番だと思うけれど。

賞をとったからすごいというわけではないけれど、「サントリー学芸賞」、「早稲田ジャーナリズム大賞」に輝いたのも当然だと思える「北の無人駅から」。無人駅は何となく寂しくて心細いけれど、その背後の物語に触れてみたいと思わせる出色のノンフィクションだ。

 

北の無人駅から

北の無人駅から